今回は 点滴漏れ(薬剤の皮下浸潤) により右手関節に皮膚壊死を起こした
生後 7 か月の女の子が、なつい式湿潤療法 のみで植皮を回避し、
綺麗に治癒した症例をご紹介します。
❶ 受診までの経過
時期 | 治療施設・処置内容 | 傷の変化 |
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入院直後 | A病院小児科でインフルエンザ治療中に点滴漏れ → 皮膚壊死発生 |
赤黒く腫脹 |
数日後 | B大学医学部皮膚科 ○○先生へコンサル → デルモベート+ガーゼ |
改善せず |
その後 | A病院でゲンタシン+ガーゼ → 悪化し黒色壊死へ |
壊死拡大 |
さらに | ゲーベンクリームへ変更 | 黒色壊死進行 |
C皮膚科 | 「今すぐ植皮を」と説明 | ご家族が強い不安 |
ポイント
“ガーゼ+軟膏” は乾燥・固着を招き、乳幼児の壊死創を悪化させやすい ため注意が必要です。
❷ 当院初診時の評価
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黒色壊死が 2×3 cm 程度に拡大
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周囲に発赤・腫脹はあるものの感染徴候はなし
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機能障害(指の動き)は保たれている
❸ お母さまへの説明と治療計画
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なつい式湿潤療法とは
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壊死部を乾かさず保湿し、自家融解を待つ
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消毒・ゲーベンクリーム・ガーゼは使用しない
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ご家庭でのケア
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毎日シャワー・入浴 OK(石けん洗浄も可)
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創面はハイドロコロイド+ラップで密閉保湿
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交換は 1 日 1 回、浸出液量に応じて調整
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経過予測
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黒色壊死は約 2 週間で自然に融解(自己デブリードメント)
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その後、徐々に上皮化し 4〜6 週間でピンク色の新生皮膚に
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植皮は不要、瘢痕も最小限
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治療方針の妥当性を確認するため、なつい式湿潤療法の第一人者・夏井睦先生にメールで相談し、迅速なご助言をいただきました。心より感謝申し上げます。
❹ 治療経過ハイライト
経過日数 | 観察所見 |
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7日目 | 壊死部が軟化・縮小開始 |
14日目 | 壊死片が自然脱落、肉芽組織が平坦に充填 |
28日目 | 上皮化ほぼ完了、淡紅色の新皮膚 |
2か月後 | 色素沈着のみで、肥厚性瘢痕なし |
❺ まとめ 〜 点滴漏れ壊死でも「植皮なし」で治せる理由
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なつい式湿潤療法なら痛みが少なく乳児でも安全
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壊死創は湿潤環境で自然融解 → 自己治癒力を最大限活用
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機能・美容面の仕上がりが良好(関節可動域も温存)
点滴漏れや低温熱傷で「植皮しかない」と言われた場合でも、
正しい湿潤療法 で治るケースは少なくありません。
ご不安なときは、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献・リンク
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夏井睦『傷は絶対消毒するな』(小学館)
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医師向け解説:薬液・輸液漏出による皮膚壊死となつい式湿潤療法の適応
おわりに
今回の症例は、ご家族の「植皮は避けたい」という強い願いと、なつい式湿潤療法のエビデンスが合致したことで、最高の結果を得ることができました。
同じようなケースでお悩みのご家族や医療従事者の方々の参考になれば幸いです。
大阪市淀川区・新大阪【こおりたひろ整形形成外科クリニック】
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