今回は、首の後ろ(後頚部)にできた粉瘤が炎症を起こし、他院で「炎症しているので手術できない」と言われた70代男性の症例をご紹介します。
患者さんの経過
4年ほど前から、首の後ろに直径約2.5cmのしこりがありました。最近になって赤く腫れて痛むようになり、近くの皮膚科を受診されたそうです。
そこでは「炎症しているから今は手術できない。抗生物質で一度炎症を抑えましょう」と説明を受け、抗生物質を処方されました。
ところが、炎症は治まるどころか、痛みはだんだん強くなっていきました。ご自身でインターネットを調べ、炎症していても手術を行っている当院を受診されました。

10日後に控えていたご夫婦旅行
診察の際、「実は10日後に、夫婦で南関東へ紅葉を見に行く2泊3日の旅行を予定していたんです。1年前から楽しみにしていたのですが、この首では無理なので諦めました」とおっしゃいました。
私は「諦める必要はありませんよ」とお伝えしました。炎症している今こそ手術をすれば、痛みの原因を取り除くことができます。傷が完全にふさがっていなくても、湿潤療法であれば旅行先でも簡単なケアを続けられます。
ご納得いただき、翌日に手術を行いました。
「炎症していると手術できない」は本当?
粉瘤が炎症を起こしたとき、「まず抗生物質で炎症を抑えてから、落ち着いたら手術」という方針をとる医療機関は少なくありません。
しかし、炎症した粉瘤の多くは、細菌が原因というよりも、袋が破れて中身(角質のかたまり)が周りの皮膚に漏れ出し、体がそれに強く反応している状態です。そのため、抗生物質は効きません。今回のように、飲み続けても痛みが続いたり、強くなったりします。
当院では、炎症していても、くりぬき法で袋と中身をできるだけ取り除く手術を行っています。痛みや腫れの原因そのものを取り除くので、多くの場合、手術後は痛みが楽になっていきます。
当院での治療:くりぬき法+湿潤療法
くりぬき法は、皮膚に小さな丸い穴をあけ、そこから粉瘤の中身と袋を取り出す方法です。今回は直径約2.5cmの粉瘤に対し、6mmのパンチを使用しました。
襟足の生え際にある粉瘤でしたが、髪を剃らずに手術を行っています。手術の跡が髪で隠れるので、術後すぐに人目を気にせず過ごせることも、患者さんに喜ばれる点です。
炎症した粉瘤でしたが、抗生物質は使用していません。痛みや腫れの原因である中身と袋を取り除くことが、何よりの治療になるためです。
手術後は傷を縫わずに、なつい式湿潤療法で治していきます。傷を乾かさず、適度に潤った状態に保つことで、体が本来もっている治る力を活かします。消毒やガーゼは使わず、ご自宅でのケアもシャワーで洗って被覆材を貼り替えるだけの簡単なものです。



術前は痛みがとてもつらそうでしたが、手術の直後から「嘘みたいに痛みがなくなりました」と喜んでいただきました。

傷が治りきっていなくても、旅行へ
術後8日目、出発前に受診していただいた時点では、傷はまだ完全にはふさがっていませんでした。それでも、ご自身でケアを続けていただきながら、予定どおり1年前から楽しみにされていた紅葉の旅に出かけていただきました。

旅行から戻られての受診
旅行から帰られて最初に受診された術後15日目には、傷はすっかり治っていました。

術後23日目には、赤みもさらに薄くなり、傷あとは目立たなくなってきています。

患者さんの声
「紅葉はとても綺麗で、夫婦ともに感動しました。旅行、本当に楽しかったです。これも先生のおかげです。ここを受診していなかったら、痛くてとても旅行どころではなかったと思います。本当にありがとうございました。」
1年前から楽しみにされていた紅葉を、ご夫婦で存分に楽しんでいただけたこと、私も本当にうれしく思いました。
まとめ
- 炎症した粉瘤に、抗生物質は無効です
- 当院では、炎症していてもくりぬき法で手術を行っています
- 今回の患者さんは、手術直後から痛みがなくなったと喜ばれました
- 今回は約2.5cmの粉瘤を6mmのパンチで摘出し、抗生物質は使用していません
- 湿潤療法なら、傷が治りきる前でもご自身でケアしながら日常生活や旅行を続けられます
- 髪の生え際の粉瘤でも、髪を剃らずに手術できます
「炎症しているから手術できない」と言われて痛みに困っている方は、一度ご相談ください。
当院の治療理念:なつい式湿潤療法
「なつい式湿潤療法」は、日本の形成外科医であり、湿潤療法の第一人者として高く評価されている夏井睦先生によって確立された治療法です。
この治療法は、消毒やガーゼを使用せず、創部を湿潤環境に保つことで、痛みを最小限に抑え、治癒を促進します。当院では、夏井先生の治療理念に基づいた創傷管理を実践しています。
※当院のブログは、すべて院長が自ら執筆しております。SEO対策業者の皆様から数多くご連絡を頂きますが、今後も自院の実際の症例に基づき、院長が責任をもって情報発信を続けてまいります。どうぞご理解いただきますようお願い申し上げます。
🖊️ 執筆者情報
執筆者:郡田 大宇 医師(こおりたひろ整形形成外科クリニック 院長)
専門分野:整形外科・形成外科・熱傷・粉瘤手術
経験・実績:粉瘤手術を中心に累計6,000件(年間約500件)以上の手術実績。粉瘤、ケガ、やけどなど、くりぬき法・なつい式湿潤療法による症例をブログに1,000例以上掲載しています。すべての症例は院長自身が診察・手術・経過観察を行っています。