湯たんぽによる低温やけど:29歳女性の症例
29歳の女性が、湯たんぽで脚に低温やけどを負いました。低温やけどとは、44℃前後の「それほど熱くない温度」のものに長い時間触れ続けることで起こるやけどです。熱さや痛みを感じにくいため、気づいたときには皮膚の深いところまで傷んでいることが少なくありません。
他院で「植皮が必要」と言われて
この方は、はじめに別の皮膚科で1か月間治療を受けていました。治療内容は傷の消毒とガーゼでの処置で、かさぶたができるたびに麻酔なしで取り除く処置があり、そのたびに強い痛みがあったそうです。
1か月たっても傷は治らず、「植皮(ほかの場所から皮膚を移植する手術)が必要」と説明を受けました。植皮は避けたいと考え、ご自身でインターネットを調べるなかで、なつい式湿潤療法を知り、当院を受診されました。
当院初診時の状態

受診時、傷の中央には黒っぽいかさぶたがありました。これは、やけどで傷んだ皮膚が乾いて固まったものです。まわりの皮膚には赤みが見られました。
傷の状態を確認したうえで、この傷は植皮をしなくても治る見込みがあることをお伝えしました。患者さんはとてもほっとされた様子でした。
なつい式湿潤療法での治療経過
なつい式湿潤療法では、傷を消毒せず、ガーゼも使いません。傷を水道水で洗い、乾かさないように被覆材(傷を覆う専用のシート)で覆って、傷を治す力をもつ体液を傷の表面にとどめます。

湿った環境に保つことで、黒いかさぶたは柔らかくなります。かさぶたが取れると、赤い組織(肉芽:にくげ)が見えてきます。肉芽は、傷のくぼみを内側から埋めていく新しい組織です。


肉芽が傷を埋めると、まわりから皮膚が伸びてきて、傷を少しずつ覆っていきます。
患者さんは「処置がまったく痛くなかった」と驚いていました。湿潤療法では傷を乾かさず、かさぶたを無理にはがすこともないため、処置の痛みが少ないのが特徴です。
治療開始から17日で治癒

当院で治療を始めてから17日で、傷は皮膚で覆われ、治癒しました。治ったばかりの皮膚は赤みがありますが、この赤みは時間とともに落ち着いていきます。
12年後の状態

12年後、別の症状で当院を受診された際に、やけどの部位を拝見しました。傷あとはほとんど分からないほどになっていました。
患者さんによると、治った後の3年ほどは少し黒っぽい色が残っていたものの、年月とともにだんだん薄くなっていったそうです。これは「色素沈着」と呼ばれる、やけどや傷のあとによく見られる変化です。また、触ったときの感覚が鈍いなどの症状(感覚障害)はまったくないとのことでした。
「本当にありがとうございました。私の症例がお役に立てるのであれば、ブログに載せてください」とおっしゃっていただき、今回ご紹介させていただきました。私自身も大変うれしく思いました。
低温やけどは「見た目より深い」ことがあります
低温やけどは、受けた直後は赤みや小さな水ぶくれ程度で、軽く見えることがあります。しかし、熱が長い時間かけて皮膚の奥まで伝わっているため、数日から1〜2週間たってから、黒いかさぶたや深い傷になることがあります。
やけどの深さや範囲によっては、湿潤療法でも植皮などの手術が必要になる場合があります。すべての低温やけどが手術なしで治るわけではありません。治療方法は、傷の状態を診察したうえで判断します。
低温やけどを防ぐために
・湯たんぽは寝る前に布団を温めるために使い、寝るときは布団から出す
・湯たんぽや電気あんかを、直接肌に当て続けない
・使い捨てカイロを貼ったまま寝ない。肌に直接貼らない
・糖尿病などで足の感覚が鈍い方、ご高齢の方、お酒を飲んだ後や睡眠薬を飲んでいるときは特に注意する
治療内容・費用・主なリスク
【治療内容】なつい式湿潤療法(消毒・ガーゼを使わず、被覆材で傷を湿った状態に保つ治療)。通院で処置を行いました。
【費用】保険診療(3割負担の場合):初診 約1,300円、再診 約600円(1回あたり)
【主なリスク・副作用】色素沈着(本症例では治癒後約3年続きました)、傷あとが残る・盛り上がる(肥厚性瘢痕)可能性、傷の感染、やけどの深さによっては植皮などの手術が必要になる場合があります。治り方には個人差があります。
当院の治療理念:なつい式湿潤療法
「なつい式湿潤療法」は、日本の形成外科医であり、湿潤療法の第一人者として高く評価されている夏井睦先生によって確立された治療法です。
この治療法は、消毒やガーゼを使用せず、創部を湿潤環境に保つことで、痛みを最小限に抑え、治癒を促進します。
当院では、夏井先生の効果的な治療理念に基づいた創傷管理を実践しています。
🖊️ 執筆者情報
執筆者:郡田 大宇 医師
(こおりたひろ整形形成外科クリニック 院長)
専門分野:整形外科・形成外科・熱傷・粉瘤・ほくろ・イボ・巻き爪手術
経験・実績:粉瘤手術を中心に累計6,000件(年間約500件)以上の手術実績。
粉瘤、ケガ、やけどなど、くりぬき法・なつい式湿潤療法による症例をブログに1,000例以上掲載しています。
すべての症例は院長自身が診察・手術・経過観察を行っています。